10年ぶんを並べてみる
引っ越しの見積もりを取るために、部屋のものを一通り数えた。ついでに「これはいつ買ったんだったか」と思い出していたら、気づけば夜だった。一人暮らしを始めて10年、その間に買った道具は驚くほど残っているものと、跡形もなく消えたものにきれいに分かれる。このシリーズの締めくくりとして、10年ぶんを一度ぜんぶ並べてみる。
並べて分かったのは、値段と満足度がまったく比例していないという事実だった。高かったから良かった道具は、実はそんなに多くない。むしろ長く残っているのは「生活の形にぴったりはまったもの」で、それは高いものにも安いものにも等しく起こる。
残っている道具には共通点がある。毎日触ること。壊れても同じものを買うと即答できること。この2つを満たすものだけが10年生き残った。逆に「あると便利そう」で買ったものは、ほぼ全滅している。便利そう、は動機として弱いのだ。

ジャンル別に振り返る
ジャンルごとに、今も現役のものを中心に振り返っていく。年数は購入からの経過で、途中で買い替えたものは現行機の年数にした。
| ジャンル | 今も現役の主力 | 使用年数の目安 |
|---|---|---|
| キッチン | 炊飯器・電気ケトル・包丁・鍋 | 3〜10年 |
| 掃除と洗濯 | スティック掃除機・洗濯機・除湿機 | 4〜7年 |
| デスク | 椅子・モニターアーム・キーボード | 5〜8年 |
| 癒しと冬支度 | 電気毛布・加湿器・コーヒー器具 | 2〜9年 |
キッチン
炊飯器は10年で2台目。1台目は3合炊きの安いもので、5年ほどで内釜のコーティングが剥げてきたところで買い替えた。2台目は少し予算を上げて、保温と洗いやすさで選んでいる。一人暮らしでも3合より5.5合を勧めたい理由は単純で、まとめて炊いて冷凍する運用が圧倒的に楽だからだ。炊飯器は容量が生活のリズムを決める。
電気ケトルは3千円台のものを、壊れるたびに同じような価格帯で買い直している。ここに1万円を足しても、湯が沸く速度も味も変わらない。一方で包丁は10年前に買った1本を研ぎながら使っていて、これは金額の桁が違っても後悔がない。刃物は研げば戻るという構造そのものが強い。良い包丁は、使うほど手に馴染む。ずっと持っていたい道具である。
鍋は片手鍋とフライパンの2つに落ち着いた。一時期は用途ごとに増やしたが、洗う手間が増えるだけで料理は増えなかった。道具を増やして行動が変わるのは、その道具が手間を減らすときだけだ。
掃除と洗濯
掃除機はコードレスのスティック型が正解だった。理由は吸引力ではなく、「取り出すまでの秒数」が短いことに尽きる。掃除の頻度は性能ではなく、面倒くささで決まる。充電スタンドを部屋の隅に立てておくだけで、掃除機をかける回数が明らかに増えた。
ただし数年でバッテリーがへたる。ここは覚悟しておく話で、バッテリーを交換できるモデルかどうかを買う前に確認しておくと、寿命がそのまま倍近くになる。
洗濯機は縦型を使い続けている。乾燥機能付きに憧れて何度も調べたが、設置スペースと排水経路の条件で毎回諦めてきた。代わりに除湿機を導入して部屋干し前提に切り替えたところ、これが想像以上に効いた。梅雨も冬も、洗濯物の乾き方に季節が関係なくなる。
デスク
10年で一番金額を投じたのがここだ。仕事柄、平日は10時間近く座っている。椅子は3脚目で、安い椅子と数万円の椅子は、座り心地よりも「夕方の腰の残り方」で差が出る。長時間座る仕事なら、机より先に椅子に予算を回してほしい。
モニターアームは、机の上の面積が増えるという一点で元が取れた。天板の奥行きが実質10cm伸びる感覚がある。キーボードは沼なので深入りしないが、8年前に買った1台を今も使っている。打鍵音が心地よい。これは完全に趣味の領域だが、毎日触るものが好きだと仕事の入りが軽くなる。
癒しと冬支度
電気毛布は、暖房費という観点でも体感という観点でも、この10年で最も費用対効果の高い買い物だった。数千円で冬の夜が変わる。エアコンの設定温度を下げても平気になり、冬の電気代がひと月あたり数千円単位で軽くなった。
加湿器は据え置きの気化式に落ち着くまでに、卓上の小さいものを2つ失敗している。部屋を加湿したいなら、部屋の広さに合った能力のものを買うしかない。ここは精神論が通じないところだ。
コーヒー器具は、ドリッパーとケトルとミル。買った当初は毎朝丁寧に淹れて、途中でやめて、また戻ってきた。生活が忙しい時期はインスタントでいい。それでも戻る場所として器具が棚にあるのは、悪くない。
高くても買い直すもの
10年ぶんを並べたうえで、明日壊れたら同じ価格帯で即座に買い直すものを挙げる。椅子、包丁、モニターアーム、除湿機、そして掃除機。この5つには共通点があって、いずれも「毎日または毎シーズン確実に使い、性能差が体感として分かる」ものだ。
逆に言えば、この2条件を満たさないものに高い金を払うと、たいてい後悔する。高機能なものを買うときは、その機能を週に何回使うかを先に数えるといい。週1回未満なら、その機能に払う金額は趣味の支出として扱ったほうが精神衛生上いい。
安いままでいいもの
反対に、10年経っても価格帯を上げる必要を感じないものもある。電気ケトル、トースター、まな板、体組成計、電気毛布。この辺りは、高いモデルの付加価値が「速さ」や「見た目」に寄りがちで、生活の中身が変わらない。
もっとも、満足感が悪いわけではない。見て気分が上がるものを置くのは立派な理由だ。ただそれを「性能で選んだ」と自分に言い聞かせると、次の買い物の判断がぶれる。愛でるために買ったなら、堂々と愛でればいい。
買わなくてよかったもの
正直に書く。10年で明確に失敗したのは、多機能をうたう調理家電、卓上加湿器、2台目のハンディクリーナー、そしてフードプロセッサーだ。どれも壊れたわけではなく、単に使わなくなった。
共通するのは、買う前に「週に何回使うか」を数えなかったこと。調理家電は洗う工程が1つ増えるだけで使用頻度が激減する。フードプロセッサーは、刃と容器を洗う手間が、包丁でみじん切りをする手間を上回った瞬間に棚の奥へ行った。
洗う・片付ける・しまう工程が今より増える道具は、その手間を上回る時短がないと続かない。
置き場所が決まっていない道具は、買った時点で使用頻度が半分になる。
これから買うつもりのもの
11年目に向けて、候補は3つある。タンク式の食洗機、ロボット掃除機、遮光カーテンの入れ替え。
食洗機は、水道の分岐工事が不要なタンク式なら賃貸でも置ける。設置に電気工事や配管工事が必要なタイプは、資格が要る作業なので自分でどうにかしようとは考えていない。置き場所の奥行きと、シンク横に耐荷重があるかを測っているところだ。
ロボット掃除機は、床にものを置かない生活が前提になる。つまり買う前に部屋を片付ける必要があって、そこで毎回止まっている。……やっぱり今年もやめました、になりそうな予感がしている。皆さんはどうでしょうか。

一式そろえるならこの順番
これから一人暮らしを始める人に、10年ぶんの結論として買う順番を示す。同時に全部そろえる必要はないし、そろえないほうが失敗が減る。
- 冷蔵庫・洗濯機・電子レンジ・照明(無いと生活が始まらないもの)
- 炊飯器・電気ケトル・掃除機(毎日の手間を直接減らすもの)
- 椅子とデスク(在宅で仕事をするなら、ここは2番目に繰り上げていい)
- 除湿機・電気毛布などの季節もの(必要な季節が来てから買う)
- 調理家電・趣味の道具(生活のリズムが固まってから)
4番以降を先に買うと、たいてい使わない。生活のリズムが決まる前に道具を先回りさせると、道具のほうが余るからだ。カテゴリごとの選び方は一人暮らしの家電の選び方ガイドにまとめてあるので、これから一式そろえる人はそちらから読んでほしい。
まとめ|道具は生活の形に合わせて残っていく
10年ぶんを並べて分かったのは、残る道具は生活の形に合ったものだけ、という単純な話だった。高い安いより、毎日触るかどうかで満足度が決まる。毎日触るものには予算を寄せ、たまにしか触らないものは安く済ませる。この配分だけで、買い物の打率はかなり上がる。
そして、生活の形は変わる。転職して在宅が増えれば椅子の優先度が上がり、部屋が広くなれば掃除機の条件が変わる。今の正解が5年後の正解とは限らない。だから道具は一度に全部そろえず、生活が変わるたびに一つずつ入れ替えていくのがいい。
10年使った包丁を研ぎながら、次の10年もこの調子でいくのだろうなと思う。
あわせて読みたい
『一人暮らし10年のベストバイ』シリーズは今回で6回目。各回でジャンルごとに掘り下げているので、気になるところから読んでほしい。
シリーズ第1回を読む/第2回を読む/第3回を読む/第4回を読む/第5回を読む
なお、価格やセール状況は時期によって変わるため、購入前に各販売ページの最新情報を確認してほしい。
