モバイルバッテリーの機内持ち込み|容量の上限と預けられない理由

パスポートと搭乗券の横に置かれた黒いモバイルバッテリー

空港のカウンターで、スーツケースを開けさせられている人を見たことがある。中から出てきたのはモバイルバッテリーだった。搭乗までまだ時間はあったが、荷物を広げ直すあの感じは、できれば避けたい。モバイルバッテリーは預け入れができず、機内持ち込みだけが許されている。しかも2026年4月24日から、持ち込める個数と機内での使い方のルールが変わった。この記事では、なぜ預けられないのか、容量の上限がどう決まっているのか、そしてmAh表記からWhを計算する方法まで、当日迷わないところまで整理する。

目次

預け入れができない理由

モバイルバッテリーの中身はリチウムイオン電池である。この電池は、内部で短絡(ショート)や過熱が起きると、自分で発熱を加速させながら燃え続ける。専門的には熱暴走と呼ばれる現象で、いったん始まると水をかけた程度では止まらない。

問題は「どこで起きるか」だ。客室で発煙すれば、乗務員がすぐ気づいて消火器と耐火バッグで対処できる。ところが貨物室は、飛行中は誰も入れないし、目視の監視もできない。貨物室で火が出ても、人が消しに行けない 。だからリチウムイオン電池を含む機器は、原則として客室側に置くルールになっている。預け入れ禁止は嫌がらせではなく、燃えたときに人の目が届く場所に置いておくための設計なのだ。

2025年1月に韓国・釜山で発生した旅客機の火災でも、機内のリチウムイオン電池が原因ではないかと指摘された。この事故をきっかけに、日本の航空各社は2025年7月8日から「頭上の収納棚にモバイルバッテリーを入れない」「充電するときは常に状態が見える場所で」という運用に切り替えている。収納棚に入れてしまうと、結局は目が届かない貨物室と同じことになるからだ。

モバイルバッテリーは預け入れ手荷物に入れられない。必ず手荷物として機内に持ち込む。

モバイルバッテリー本体に印字された容量表示のアップ

容量の上限はどう決まっているのか

機内持ち込みの可否を決めているのは、パッケージに大きく書いてある「10000mAh」ではない。判断の基準はWh(ワットアワー)という単位 である。ここを知らないまま空港に行くと、保安検査で「これは何Whですか」と聞かれて固まることになる。

国際的な区切りは100Whと160Whの2段階だ。100Wh以下なら特別な手続きなしで持ち込める。100Whを超えて160Wh以下のものは、航空会社の承認が必要になる。そして160Whを超えるものは、そもそも旅客機に持ち込めない。大型のポータブル電源が飛行機に乗せられないのは、この線を大きく超えているからである。

Whという単位の読み方

Whは、電池が蓄えているエネルギーの量そのものを表す。電圧(V)と電流容量(Ah)を掛け合わせた値で、同じ「10000mAh」でも電圧が違えばエネルギー量は変わる。航空のルールがmAhではなくWhを基準にしているのは、こちらのほうが危険度と直結するからだ。燃えたときに出るエネルギーの総量が問われている、と考えると腑に落ちる。

最近の製品なら、本体の裏面や側面に小さな文字で「37Wh」のように印字されていることが多い。まずはそこを見てほしい。書いてあるならその数字が正解で、自分で計算する必要はない。

mAhからWhへの換算

Wh表記が見当たらない場合は、自分で計算する。式は単純だ。

Wh = mAh ÷ 1000 × 電圧(V)

リチウムイオン電池のセル電圧は、公称値で3.6Vか3.7Vが使われている。どちらか分からないときは3.7Vで計算しておけば、実際よりわずかに大きい値が出るので安全側に転ぶ。注意したいのは、USB出力の5Vで計算しないこと 。5Vで計算すると数字が大きく出てしまい、本当は問題ないバッテリーを「持ち込めない」と誤判定する。

表記容量Wh換算(3.7V)持ち込みの扱い
5,000mAh約18.5Whそのまま持ち込める
10,000mAh約37Whそのまま持ち込める
20,000mAh約74Whそのまま持ち込める
27,000mAh約99.9Wh100Whぎりぎり
30,000mAh約111Wh航空会社の承認が必要
45,000mAh約166.5Wh持ち込めない

市販の一般的なモバイルバッテリーは、10,000mAhか20,000mAhが主流である。この帯なら37Whか74Whで、100Whの半分にも届かない。つまり普通のモバイルバッテリーを1つか2つ持って行く分には、容量で引っかかることはまずない。ややこしくなるのは、ノートPCも充電できる25,000mAh超の大型モデルを選んだときだ。26,000mAh前後の製品が多いのは偶然ではなく、100Whの壁に当たらないように設計されているためである。

個数の制限と保護のしかた

2026年4月24日から、日本発着の便で個数のルールが変わった。国土交通省が国際基準の緊急改訂を受けて告示を改正したもので、機内に持ち込めるモバイルバッテリーは1人2個まで(いずれも160Wh以下) となっている。以前は100Wh以下なら常識的な範囲で個数制限がなく、100Wh超160Wh以下のものだけが2個までだった。今は容量の大小に関係なく、合計2個が上限だ。

同時に、機内での使い方にも制限がかかった。飛行中にモバイルバッテリーへ充電すること、そしてモバイルバッテリーからスマートフォンなどへ給電することの両方が禁止されている。充電中は電池がいちばん熱を持つタイミングなので、そこを丸ごと止めてしまう考え方である。

【2026年4月24日以降の3つの変更点】

持ち込みは1人2個まで(160Wh以下に限る)

機内でモバイルバッテリーを充電しない

機内でモバイルバッテリーから他の機器へ給電しない

長距離便でスマホの電池が切れそうでも、機内でモバイルバッテリーからの給電はできない。座席のUSBポートやコンセントを使うことになる。

保護の話もしておく。裸のまま鞄に放り込むと、鍵や小銭で端子がショートする可能性がある。専用ポーチに入れるか、端子部分にキャップかテープを貼っておけばそれで足りる。同じ理由で、予備のリチウム電池(カメラ用バッテリーなど)も端子を絶縁して個別に包むことが求められている。

航空会社ごとに違う運用

容量の区切りと個数の上限は国際基準に基づくため、どの航空会社でもおおむね共通である。違いが出るのは、100Whを超えるバッテリーの承認手続きと、機内でのアナウンスや注意の厳しさだ。

JALとANAは、いずれも2026年4月24日搭乗分から新ルールを適用している。100Wh超160Wh以下のバッテリーを持って行く場合は事前の申し出が必要で、当日カウンターでいきなり出すと時間がかかる。海外の航空会社では、機内持ち込み手荷物のサイズや個数のカウント方法が違ったり、モバイルバッテリーを座席前ポケットに出しておくよう指示されたりすることがある。搭乗するのが外国の航空会社なら、その会社のサイトを一度見ておいたほうがいい。

もうひとつ、先の話を書いておく。国際航空運送協会(IATA)の規定変更により、2027年1月以降は上限が100Whに引き下げられる可能性がある。100Whを超える大型バッテリーを新たに買うつもりなら、その前提で考えておきたい。

新幹線やバスではどうなのか

飛行機ばかり注目されるが、地上の交通機関でも扱いは動いている。

新幹線については、JR各社ともモバイルバッテリーの持ち込み自体を禁止していない。容量の上限も個数の制限もなく、これまでどおり車内で充電に使える。ただし列車内での発煙・発火が実際に起きていることを受けて、JR東日本など5社は新幹線に消火用の防火用品を配備した。持ち込みは自由でも、リスクは同じだけあるという認識である。膨らんだバッテリーを座席の隙間に落としたまま気づかない、といった状況は避けたい。

高速バスはもう少し厳しい。多くの事業者が、モバイルバッテリーの床下トランクへの預け入れを禁止 している。理由は飛行機の貨物室とまったく同じで、走行中は誰も見ていないからだ。バスに乗るときは、スーツケースの中に入れっぱなしにせず、手荷物として車内に持ち込む。飛行機で身についた「バッテリーは手元」という習慣が、そのまま通用する。

保安検査で止められないための準備

やることは多くない。前日の夜に5分あれば終わる。

STEP
容量を確認する

バッテリー本体の印字を見てWh表記を探す。無ければmAhと電圧から計算し、100Wh以下かどうかを確かめる。

STEP
手荷物に移す

スーツケースの中にあるなら、機内に持ち込むリュックやトートに移す。預けるほうに入っていないか、荷造りの最後にもう一度見る。

STEP
端子を保護する

ポーチに入れるか、端子にキャップを付ける。裸で他の金属と一緒にしない。

STEP
取り出しやすい位置に入れる

検査場でX線トレイに出すよう言われることがある。鞄の底ではなく、上のほうか外ポケットに入れておく。

検査場では、モバイルバッテリーを含む電子機器を鞄から出すよう案内される場合がある。ノートPCと一緒にまとめて取り出せるようにしておくと、後ろに並んだ人を待たせずに済む。

搭乗前にバッテリーを満充電にしておくと、機内で給電できなくてもスマホ側の残量でしのげる。

充電ケーブルと一緒にポーチへ入れた小型モバイルバッテリー

旅行に持って行くなら容量は控えめに

ここまでのルールを踏まえると、旅行用のモバイルバッテリーは大容量であるほど有利、とは言えなくなる。1人2個までという枠がある以上、選ぶべきは「軽くて、Whを気にせず持ち込めて、必要な回数だけ充電できるもの」だ。

目安として、スマートフォン1台なら10,000mAhで2回前後の満充電ができる。1泊2日や2泊3日の旅行で、宿にコンセントがあるなら、これで十分足りる。20,000mAhになると2人で分け合っても持つが、重量は400g前後まで増える。ノートPCを充電する予定があるなら20,000mAh以上が要るものの、その場合でも100Whを超えない範囲、つまり25,000mAh前後までに収めておくと手続きが要らない。

10,000mAhクラス
20,000mAh超クラス
  • 200g前後で身軽
  • Whを計算するまでもなく余裕で基準内
  • スマホ2回分で1〜2泊なら足りる
  • ノートPCやタブレットも充電できる
  • 2人旅で共有しやすい
  • 400g超と重く、100Whの壁を意識する必要が出る

方式や出力の違い、USB PDの選び方まで含めた話はモバイルバッテリーの選び方にまとめている。容量だけで決めると、充電速度で後悔することがある。

古いものは持ち込まない

引き出しの奥から出てきた数年前のモバイルバッテリーを、旅行のときだけ引っ張り出す。よくある話だが、これはおすすめしない。リチウムイオン電池は使わなくても劣化する。内部で電解液が分解してガスが溜まり、外装が膨らんでくる。

膨らんでいる、熱を持ちやすい、充電してもすぐ減る。このどれかに当てはまるバッテリーは、旅行に連れて行かない。

判断は難しくない。平らな机に置いてガタつく、ケースの合わせ目が開いている、充電中に触れないほど熱くなる。ひとつでも当てはまれば寿命である。膨張したものを鞄に押し込んで圧力をかけるのは、いちばんやってはいけない扱い方だ。

そして厄介なのは、寿命を迎えたバッテリーが普通ごみで捨てられないことである。回収の方法はモバイルバッテリーの捨て方で詳しく書いた。膨らんだものは受付方法が変わる場合があるので、そちらを見てから動いてほしい。

まとめ|Whの計算ができれば当日は迷わない

覚えることは結局3つだ。預けられないから手荷物に入れる。容量はWhで見て100Wh以下なら手続き不要。個数は2個まで、機内での充電と給電はしない。この3つが頭に入っていれば、保安検査で慌てることはない。

そして、ほとんどの人が持っている10,000mAhのバッテリーは37Wh。基準の3分の1にも届かない。散々ルールを並べておいて何だが、普通の旅行用モバイルバッテリーは、まず引っかからない のである。心配していたほどのことはなかった、という結論に着地するために計算式を覚えておく——そういう種類の知識だと思っている。

ちなみに、この記事を書きながら手元のバッテリーの裏を見たら、印字が擦れて「37W」までしか読めなかった。10,000mAhと分かっているので37Whで確定なのだが、あの小さな印字は数年で消える。買ったときにWh値をスマホのメモに控えておくと、後で楽をする。

モバイルバッテリーが内蔵されたスーツケースは預けられますか。

電池を取り外せるタイプなら、電池を抜いて機内に持ち込み、スーツケース本体は預けられます。取り外せない一体型は預け入れも持ち込みも断られることが多いため、購入時に「バッテリー着脱式」かどうかを必ず確認してください。

ワイヤレスイヤホンやノートPCも2個の制限に含まれますか。

含まれません。個数制限の対象は、単体で持ち運ぶモバイルバッテリーや予備のリチウム電池です。機器に内蔵された電池は別扱いで、ノートPCやカメラは通常どおり機内に持ち込めます。ただし予備の交換用バッテリーは端子を絶縁したうえで手荷物へ入れる必要があります。

100Whを超えるバッテリーはどうすれば持ち込めますか。

160Wh以下であれば、航空会社の承認を得たうえで持ち込めます。当日カウンターでの申し出でも対応してもらえる場合はありますが、時間がかかるので事前連絡が確実です。160Whを超えるポータブル電源は、承認を得ても持ち込めません。

個数や機内での使用に関するルールは、事故を受けて短い間隔で更新されている。搭乗直前に、利用する航空会社の公式サイトで最新の案内を確認してほしい。

参考: 国土交通省「モバイルバッテリーの機内持込みの新たなルールについて」JAL「モバイルバッテリーの機内持ち込み個数および充電に関するルール変更についてのお願い」ANA「モバイルバッテリーの取り扱い変更について」

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