オフィスチェアの選び方|長時間座るなら見るべきところ

ランバーサポート付きのメッシュ製オフィスチェア

椅子が沈んだ。正確には、レバーを引いていないのに座面がじりじり下がっていく。10年前に1万円で買った椅子なので大往生である。さて困った、と思って調べ始めたら、オフィスチェアは見るべき順番さえ決まれば意外と迷わないことが分かった。この記事では、座面・腰まわり・肘という優先順位、メッシュとクッションの違い、価格帯で実際に何が変わるのか、そして試座できないときの確かめ方までを整理する。

目次

疲れるかどうかは座面と姿勢で決まる

オフィスチェア選びの話は、どうしても「メッシュか革か」「有名メーカーかどうか」から始まりがちだ。けれど8時間座ったあとの疲れ方を決めているのは、素材でもブランドでもない。体重を骨盤で受けられているか、そして脚が床に着いているか。この2つがほとんどを占める。

座面が高すぎれば足裏が浮き、太ももの裏側が圧迫されて血流が滞る。低すぎれば膝が持ち上がって骨盤が後ろに倒れ、背中が丸まる。どちらも背もたれの豪華さでは救えない。椅子選びは背もたれから見るものだと思われがちだが、実際は座面から決めたほうが失敗しない。

逆に言えば、この条件さえ満たしていれば数万円の椅子でも十分に戦える。高い椅子が効いてくるのはその先、姿勢が変わり続ける長時間帯の話になる。

座面の高さ調整レバーと座面前端の形状

見るべきところ

チェックする箇所は多くない。上から順に見ていくのではなく、下から——座面、腰、肘の順に見ていく。

座面の高さと奥行き

座面高の目安は、身長のおよそ1/4。身長170cmなら42cm前後、160cmなら40cm前後になる。ここで問題になるのが、多くの高機能チェアが欧米基準で設計されていて、最低座面高が42〜43cmまでしか下がらない機種が珍しくないことだ。身長160cm前後の人がこの手の椅子を買うと、足が浮く。低座面仕様(ローシートやSサイズ)が用意されている機種を選ぶか、フットレストを前提にするかの二択になる。

奥行きは、深く腰掛けて背もたれに背中を預けたとき、膝の裏と座面の前端に指が2〜3本入るくらい。ここが詰まっていると膝裏が圧迫され、余りすぎていると背もたれまで背中が届かず浅く座る癖がつく。体格が平均から外れている自覚がある人は、座面スライド(前後調整)が付いた機種を選ぶ価値が高い。

ランバーサポート

腰の部分が前に張り出している、あの機構である。役割は腰を押すことではなく、背骨の腰の部分にある自然な反りを保つこと。人は疲れてくるとこの反りが失われて骨盤が後ろに倒れるので、そこを物理的に支えておく。

見るべきは有無ではなく、上下に動くかどうか。腰の一番くぼんだ位置は身長で変わるため、固定式だと合う人と合わない人がはっきり分かれる。上下調整できるランバーサポートは、3〜5万円あたりから選択肢が増える。張り出し量まで変えられるものはさらに上の価格帯だ。

アームレストの可動

肘置きは休憩用の装備ではない。腕の重さは片腕で体重の約6%あり、体重60kgなら両腕で7kg前後になる。これを肩で吊るか肘で受けるかで、夕方の首と肩の状態が変わる。

最低限ほしいのは高さ調整。机の天板と肘の高さが揃うと、肩が上がらずに済む。そこに前後・左右・角度が加わると、キーボードのときとマウスのときで最適な位置が違う問題に対応できる。いわゆる4Dアームである。ただし4Dは可動部が多い分、数年でガタつきが出る個体もある。使い方が固定的なら、高さと角度だけの2Dで十分に足りる。

腰が痛くなる座り方と椅子の関係

ここは正直に書いておきたい。椅子を替えても腰が痛い人は、たいてい座り方のほうに原因がある。浅く腰掛けて背もたれの上のほうにもたれる、いわゆる「ずっこけ座り」をしていると、どんな高機能チェアもただの背もたれ付きスツールになる。ランバーサポートは、背中が背もたれに触れていて初めて仕事をする。

深く座れているかどうかが先。椅子の性能はその次に効いてくる。

そして、正しい姿勢を長時間キープするのも身体には負担になる。同じ姿勢が続くこと自体が疲労の原因なので、リクライニングして体重を背もたれに逃がす時間を挟めるかどうかは重要だ。ロッキングの硬さを体重に合わせて調整できる機種、あるいは体重で自動的に反力が変わる機構を持つ機種は、この「姿勢を変えられる」点で確実に楽になる。

メッシュとクッションの違い

座面の素材はここで大きく分かれる。どちらが上ということはなく、部屋の環境と座る時間で決まる。

左:

  • 蒸れにくく、夏場でも太ももが張り付かない
  • 面で支えるので圧が分散されやすい
  • 軽く、見た目に圧迫感が出にくい

右:

  • 底付き感がなく、座った瞬間の安心感がある
  • 冬に冷たくない
  • ヘタりが見た目で分かりやすく、交換部材も入手しやすい

安価なメッシュチェアで起きがちなのが、座面の縁のフレームが太ももに当たる問題である。メッシュを張るために枠が必要で、その枠の処理が甘いと、そこが一点で当たり続ける。座面メッシュを選ぶなら、縁が丸く逃がしてあるか、前端が下向きに落ちているかを確認したい。この一点だけで、1日の終わりの太ももの感覚がまるで違う。

背もたれだけメッシュ、座面はクッションという組み合わせは、実は一番外れが少ない。背中の蒸れは解消しつつ、座面の当たりの問題は避けられる。エアコンをあまり使わない部屋なら、この構成を第一候補にしていい。

価格帯で何が変わるのか

ざっくり言えば、価格で買っているのは「調整機構の数」と「へたらなさ」の2つである。

価格帯主に手に入るもの向く人
1万円台まで高さ調整とロッキングのみ。ウレタンは薄め座るのが1日2時間程度/来客用
3〜5万円ランバー上下・座面スライド・2〜4Dアーム。ウレタン密度が上がる在宅勤務で1日6時間以上座る人
8〜15万円体重連動リクライニング、背もたれの追従性、部材保証3年前後座る時間が長く、姿勢が動く人
20万円前後〜骨盤角度の制御、サイズ展開、10年超の長期保証買い替えずに10年以上使う前提の人

効き目が一番大きいのは、1万円台から3〜5万円へ上げるところだ。ここでウレタンの密度とランバー調整が手に入る。逆に10万円を超えたあたりからは、体感の伸びより耐久年数と保証の話になっていく。ハーマンミラーのアーロンチェア リマスタードが12年保証(ガスシリンダーは2年)を掲げているのは象徴的で、高価格帯は「年あたりの費用」で考えると印象が変わる。20万円を12年で割れば年1万7,000円前後、1日あたり50円ほどになる。

ただし、これは12年使い切ればの話。3年で飽きて買い替えるタイプの人間なら、この計算は成立しない。自分がどちらかは、部屋を見渡せばだいたい分かる。

中古やアウトレットという選択肢

オフィスチェアは法人の入れ替えで大量に中古市場へ出るため、状態の良い高機能チェアが新品の3〜5割程度で手に入る。予算が足りないときの現実的な逃げ道ではある。ただし確認事項がはっきりしている。

【中古で買う前に確認すること】

ガスシリンダーが下がらないか(座面が沈む症状は交換が必要で、部品代と工賃で1万円前後かかる)

製造年(多くの機種は座面裏やフレームに刻印がある)

メーカー保証が引き継がれないこと。基本的に中古はショップ独自の保証(半年〜1年程度)になる

座面の沈み・メッシュの伸び・アームのガタつきは、写真では分からない。現物確認できる店か、返品対応のある店を選ぶ。

もうひとつ、人気モデルには精巧な模倣品が出回っている。相場から極端に安いものは疑ってかかったほうがいい。中古在庫は入れ替わりが早いので、狙う機種が決まっているなら複数店を並行して見ることになる。

試座できないときの確かめ方

近所にショールームがない場合でも、確かめる方法はある。順番はこうだ。

まず、いま使っている椅子の座面高を巻尺で測る。床から座面の一番前の上面まで。それが自分にとって高いのか低いのか、足裏の接地と膝の角度で判断する。この実測値を基準に、候補機種の調整範囲が自分の適正値を「真ん中あたりで」カバーしているかを見る。調整範囲の上限ギリギリ・下限ギリギリでしか合わない椅子は、日によって合わなくなる。

次に、メーカー公式サイトの寸法図を開き、座面幅と奥行きを実際の床にマスキングテープで描いてみる。地味だが効く。オフィスチェアは想像より大きく、幅65cm・奥行65cm前後を占有する機種が多いので、後ろに下がったときに背後の家具に当たらないかもここで分かる。

そして家具量販店へ行く。狙っている機種そのものが無くても、同じ「方式」の椅子には触れる。メッシュ座面の当たり、ランバーの押され方、ロッキングの硬さは、機種が違ってもだいたいの感触がつかめる。ネットのレビューで探すべきは星の数ではなく、自分と身長・体重が近い人が書いた一文である。

机と椅子の高さの差を確かめるデスク周りの様子

机の高さとの組み合わせ

椅子だけを最適化しても、机が合っていなければ姿勢は崩れる。効いてくるのは差尺、つまり机の天板と座面の高さの差だ。目安は身長の約1/6で、身長170cmなら28cm前後になる。

ところが日本の一般的な事務机やダイニングテーブルは天板高70〜72cmで固定されている。身長160cmの人の適正座面高は40cm前後だから、差尺は30cm以上になってしまう。机が高すぎるのだ。この状態で無理に座面を上げると、今度は足が浮く。よくある「肩が凝る在宅環境」の正体はここにある。

解決策は、机側を下げるか、フットレストで足元を作るか。高さ調整できるデスクを選べる状況なら、椅子とセットで考えたほうが確実に安上がりになる。デスク側の選び方は在宅ワーク用デスクの選び方に詳しくまとめてある。

手元の明るさも姿勢に効いてくる

ここは椅子の話から少し外れる。けれど、姿勢が崩れる原因として無視できないのが手元の暗さである。書類やキーボードが見づらいと、人は無意識に首を前へ出す。首が前に出れば背中が丸まり、せっかく合わせた腰の支えから背中が離れる。椅子の設定を詰めても夕方に前傾している人は、照明を疑ってみる価値がある。

天井のシーリングライトだけだと、自分の頭と身体が手元に影を作る。デスクライトを1台足すだけで首の前傾が収まることは珍しくない。選び方はデスクライトの選び方にまとめた。椅子より安く、効果が出るのも早い。

価格帯別のおすすめ

ここまでの基準で、価格帯ごとに1機種ずつ挙げる。いずれも実売価格はセールや販売店で動くので、目安として見てほしい。

3万円台:コクヨ ミトラ2。国内メーカーの入門機として素直な設計で、日本人の体格を前提に座面が低めまで下がる。ランバーサポートと座面奥行きの調整があり、この価格で「見るべきところ」がひととおり揃っているのが強い。初めて数万円の椅子を買う人が、いちばん外しにくい。

6万円台〜:オカムラ シルフィー。背もたれが背中の動きに沿ってしなる構造で、姿勢を変えながら座る人に向く。座面はクッションとメッシュを選べて、背もたれのカーブ(前傾する/しない)も選択できる。オプションの選び方で価格が10万円前後まで動くので、まず必要な機構を決めてから構成を組むといい。中古市場でも流通量が多く、状態の良い個体を見つけやすい機種でもある。

オカムラ シルフィー
総合評価
( 4.5 )
メリット
  • 背もたれの追従性が高く、長時間でも姿勢を変えやすい
  • 座面素材・背カーブ・アームを選んで構成できる
デメリット
  • オプションを積むと価格が一気に上がる
  • 見た目はオフィス然としていて、部屋になじませるのは難しい

20万円台:ハーマンミラー アーロンチェア リマスタード。3サイズ(A/B/C)展開で体格に合わせられること、骨盤を立てた状態でリクライニングを支える機構、そして12年保証(ガスシリンダーは2年)が価格の中身である。メーカーによれば座面と背もたれの張り材は体圧を分散させて温度と湿度を逃がす設計とされる。1日8時間以上座り、10年使い切る前提があるなら、年あたりの費用では最も安くなる可能性がある椅子だ。それと、単純に造形が素晴らしい。あの半透明の骨格は、部屋に置いてあるだけで少し嬉しい。

まとめ|座る時間が長い人ほど早く投資する価値がある

結局のところ、判断は座る時間で決まる。1日2時間なら1万円台で足りる。6時間を超えるなら3〜5万円帯へ、8時間座って10年使うつもりなら上の帯を検討する意味がある。1日8時間座る人にとって、椅子は1年で2,000時間触れる道具になる。ベッドより長い。そう考えると、後回しにしていた順位が少し繰り上がってくる。

ちなみに、沈んだ椅子はガスシリンダーの交換部品が2,000円ほどで売られていることを知って一瞬迷い、工具を出し、10年分のホコリを見て……やっぱりやめました。10年働いた道具は、そこで区切ってやるのがいい気もする。皆さんの椅子は、あと何年もちそうでしょうか。

なお、価格やセール時期、中古の在庫状況は頻繁に変わる。最終的な仕様と価格はメーカー公式サイトと販売ページで確認してほしい。

オフィスチェアの寿命はどれくらいですか。

使い方によりますが、ウレタンのへたりとガスシリンダーの劣化が先に来ます。1日8時間使う環境なら、安価な機種で3〜5年、高機能機種で7〜10年が目安です。ガスシリンダーや座面クッションは部品交換できる機種も多いので、買う前に補修部品が供給されるメーカーかどうかを見ておくと長く使えます。

ゲーミングチェアとオフィスチェアは兼用できますか。

できます。ただし設計思想が違います。ゲーミングチェアは深く倒して身体を包む方向、オフィスチェアは起きた姿勢で作業を続ける方向に最適化されています。リクライニングして休む時間が長いならゲーミングチェア、机に向かってキーボードを打つ時間が長いならオフィスチェアが合います。バケットシート形状は座面が狭く感じる人もいるので、体格によっては試してから決めたほうがいいです。

1万円以下でも大丈夫ですか。

座る時間が1日2時間程度なら選択肢になります。その場合は座面高が自分に合う範囲まで下がるかだけを確認してください。1日6時間以上座るなら、ウレタンのへたりが1〜2年で来て買い替えることになりやすく、結果的に割高になります。

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