エアコンのリモコンが行方不明になった。ソファの下でもなく、洗濯物の山でもなく、なぜか冷蔵庫の上にあった。こういうことが年に何度か起きる。スマート家電に手を出したきっかけは、この程度のどうでもいい動機である。この記事では、最初に買うべき3種類の道具と、それぞれがどんな人に向くか、そして通信が切れたときに部屋が動かなくならない作り方まで書く。値段の話も、買わなくていい理由の話もする。
スマート家電は最初の1つで印象が決まる
スマート家電で挫折する人のパターンははっきりしている。最初に買ったものが、生活の中でほとんど出番のない機器だったというやつだ。カーテンを自動で開けるデバイスも、玄関のスマートロックも、面白い。面白いのだが、1日に使う回数を数えると意外と少ない。感動が2週間で薄れる。
逆に、1日に何度も触っている操作を置き換えたときだけ、生活が変わった実感が残る。照明のスイッチ、エアコンのオンオフ、寝る前の消灯。この3つはどの部屋にも存在して、しかも毎日必ず発生する。だから最初の1つは、ここを狙うのが外れない。
もう1つ、始める前に整理しておきたい前提がある。スマート家電と呼ばれているものには2種類ある。機器そのものがWi-Fiにつながる「最初からスマートな家電」と、普通の家電を外から操作できるようにする「後付けの装置」だ。今ある家電を買い替えずに始めたいなら、話は後者に絞られる。この記事も後者を中心に進める。
何ができるようになるのか
できることは大きく3つある。声で動かす、勝手に動く、離れた場所から確認する。順に見ていく。
声で操作する
スマートスピーカーやスマホのアシスタントに話しかけて家電を動かす。「電気消して」で照明が落ちる、というよくある例のやつだ。実際に暮らしに効くのは、両手がふさがっている瞬間である。料理中に手が油まみれのとき、洗濯物を抱えているとき、布団に入ってしまったあと。この3場面でスイッチまで歩かなくていいのは、地味に効く。
ただし声は万能ではない。テレビの音が大きいと反応しないし、家族や同居人がいると呼びかけが割り込む。声だけを目当てに揃えると期待外れになりやすい。声は入り口のひとつ、くらいの温度で見ておきたい。
時間と条件で自動化する
ここが本命である。「毎朝7時に照明を点ける」「気温が28度を超えたらエアコンを冷房で起動」「スマホが自宅Wi-Fiから離れたら全部オフ」といった条件を組んでおくと、操作すら不要になる。声で操作するのは結局のところ操作であって、自動化はそれを丸ごと消してくれる。
夏場に、帰宅30分前のタイミングでエアコンが動き出す設定にしてから、玄関を開けた瞬間のあの「むわっ」が消えた。これだけで元は取れたと思っている。
外から状態を確認する
出先で「エアコン消したっけ」となったときに、アプリを開けば状態が見える。切り忘れていたら消せる。温湿度計を兼ねた機種なら、部屋の温度もそのまま分かる。ペットや観葉植物を置いている部屋なら、この確認機能の価値がいちばん高い。
最初に買うなら
候補は3つに絞られる。スマートリモコン、スマートプラグ、スマート電球。どれも数千円から1万円台で、どれか1つ買えば「スマート家電のある部屋」は成立する。違いは、何を操作対象にできるかだ。
| 種類 | 操作できるもの | 価格の目安 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| スマートリモコン | 赤外線リモコンで動く家電すべて(エアコン・テレビ・シーリングライト等) | 5,000円〜1万円台半ば | 今ある家電をそのまま活かしたい人 |
| スマートプラグ | コンセントに挿す機器の電源オンオフ(間接照明・扇風機・加湿器等) | 1,500〜3,000円前後 | まず1つ試したい人・費用を抑えたい人 |
| スマート電球 | その電球自体(明るさ・色・点灯時刻) | 2,000〜4,000円前後 | 裸電球やスタンドを使っている人 |
スマートリモコン
赤外線を学習して飛ばす小さな箱。リモコンで動く家電なら、たいてい丸ごと対象にできる。1台でエアコン・テレビ・照明をまとめて面倒みてくれるので、費用対効果はこの3つの中で最も高い。迷ったらこれでいい。
注意点は、赤外線が届く位置に置く必要があること。壁や家具を回り込んではくれない。ワンルームなら部屋の中央付近に1台で足りるが、1LDK以上だと部屋ごとに必要になる場合がある。
スマートプラグ
コンセントと機器のあいだに挟む中継アダプタ。電源のオンオフしかできないが、その割り切りが潔い。物理スイッチが「入」のまま固定できる機器——間接照明、扇風機、電気ケトルの保温——なら、これで自動化が完成する。
逆に、電源を入れ直すたびに本体のボタンを押さないと動かない家電には効かない。ここを間違えると2,000円が机の引き出しに眠る。買う前に、その機器がコンセントを挿しただけで動き出すかを確認したい。
スマート電球
電球そのものを取り替えるだけで済むので、導入がいちばん簡単だ。E26などの口金が合えば挿すだけ。色温度を変えられる機種なら、夜は電球色に落として朝は白い光で起こす、といった使い方ができる。
壁のスイッチを切ると電源ごと落ちてアプリから操作できなくなる。スイッチを常時オンにしておく運用が前提になる。
スマートリモコンでエアコンを動かす
最も需要が大きいのがエアコンなので、ここだけ手順を具体的に書く。所要時間は15分ほど。難所は最初のWi-Fi接続だけである。
エアコンから見通せる位置に置く。棚の中や家具の裏は避ける。電源はUSBなので延長ケーブルの届く範囲で考える。
多くの機種は2.4GHz帯にしか対応しない。5GHzのSSIDを選ぶと繋がらないので、ここで詰まったら帯域を疑う。
主要メーカーはプリセットが用意されている。一覧になければ、手持ちのリモコンを向けてボタンを押し、信号を学習させる。
アプリ側の表示と実機の設定がずれていないかを見る。赤外線は一方通行なので、本体の状態を読み取れない機種ではここがずれやすい。
最初は「室温28度以上で冷房オン」など、ひとつだけ。まとめて組むと、あとで原因が追えなくなる。
ずれの話を補足しておく。赤外線リモコンは信号を送りっぱなしで、エアコンから返事が来ない。だから誰かが手元のリモコンで操作すると、アプリの表示と実際の状態が食い違う。上位機種には室温センサーで実状態を推定するものもあるが、完璧ではない。同居人がいる家では、リモコンの置き場所を1つに決めておくほうが平和だ。
遠隔で暖房や冷房を入れる運用は、吹き出し口の前に物を置かないことが前提になる。洗濯物を室内干ししたまま暖房を遠隔起動する使い方は避ける。各社の取扱説明書でも、外出時の運転は室内の安全を確認したうえで行うよう案内されている。
そもそもエアコン自体の買い替えを検討しているなら、最初からWi-Fi内蔵モデルを選ぶ手もある。本体側で状態を管理するので、先ほどのずれが起きない。機種選びの考え方はエアコンの選び方にまとめてある。

照明をスマート化するときの選択肢
照明のスマート化には3つのルートがあって、部屋の照明器具によって正解が変わる。
シーリングライトにリモコンが付いているなら、スマートリモコンで済む。器具を替えなくていいので費用ゼロの追加である。リモコンが無い、あるいは壁スイッチだけの部屋なら、電球を替えるルートになる。裸電球やペンダントライト、デスクスタンドはこのパターンだ。3つめは、器具ごとスマート対応のシーリングライトに買い替える方法。調光調色の質はこれがいちばん良いが、費用は数千円では収まらない。
一人暮らしのワンルームなら、メインの天井照明はスマートリモコン、手元のスタンドはスマート電球という組み合わせが安く済んで扱いやすい。就寝前に手元だけ電球色に落とせる状態は、想像より生活の質に効く。照明そのものの選び方は照明の選び方で詳しく扱っている。
規格とハブの話をどこまで気にするか
調べ始めると必ずMatter(マター)とThread(スレッド)という単語が出てくる。ここで手が止まる人が多いので、要点だけ書く。
Matterは、メーカーが違う機器を同じアプリやスピーカーから扱えるようにするための共通規格だ。Amazon・Google・Appleが揃って推している。以前は「Alexaでは動くがHomeKitでは動かない」といった相性問題が当たり前だったが、Matter対応品どうしならその壁が薄くなる。Threadは機器同士がバケツリレーで電波を中継する通信方式で、電池式のセンサー類の電池持ちと通信の安定に効く。
ではこれを最初から気にすべきかというと、1つ2つ買う段階では、ほぼ気にしなくていい。SwitchBotにせよNature Remoにせよ、各社のアプリだけで完結するし、AlexaともGoogleとも連携できる。規格の話が効いてくるのは、メーカーをまたいで機器が5個10個と増えてきてからだ。
将来の拡張を見込むなら、最初に買うハブ役の1台だけMatter対応にしておけば、あとから他社製品を足しやすい。
ハブについても同じことが言える。Wi-Fiに直接つながる機器(スマートプラグやスマート電球の多く)はハブ不要で動く。ハブが要るのは、Bluetoothや独自の低消費電力通信を使うセンサー・ボタン類を外から操作したい場合だ。最初の1台にスマートリモコンを選ぶと、それがハブを兼ねる製品が多いので、結果的に将来の拡張余地も確保できる。
通信が切れたときに困らない作り方
スマート家電の最大の弱点はここに尽きる。ルーターが再起動している数分間、あるいは回線が落ちた日、クラウド経由で動く機器は一時的にただの箱になる。締め切り前にWi-Fiが落ちて、部屋の電気が点けられなくなったことがある。仕事どころではなかった。
対策は難しくない。原則を1つ守るだけでいい。物理スイッチや手元のリモコンでも操作できる状態を残しておくことだ。スマートリモコンは元のリモコンを捨てなければ何も失わない。スマート電球も、壁スイッチを常時オンにする運用ではあるが、いざとなればスイッチで切れる。詰みやすいのは、物理的な操作手段が存在しない機器を主要な導線に組み込んでしまったときである。
もう1点、地味に効くのがルーターの位置だ。スマート家電は2.4GHz帯を使うものが多く、この帯域は電子レンジと干渉する。ルーターやスマートリモコンを電子レンジの至近に置いていると、レンジを回すたびに反応が鈍る。心当たりがあるなら、まず置き場所を疑いたい。
ネットが落ちても、照明とエアコンは手動で操作できる状態にしてあるか。

入門セットのおすすめ
ここまでの整理を踏まえて、最初の1つに向く定番を3つ挙げる。いずれも国内で流通量が多く、日本語の情報が探しやすい。価格は変動するので、記事内の目安は幅として見てほしい。
SwitchBot ハブ3。スマートリモコンの本命枠。赤外線でエアコンやテレビを操作でき、温湿度センサーと画面を内蔵する。Matterに対応していて、SwitchBotの他製品を足していける拡張性がある。メーカーによれば、ハブとして同社のセンサー類やカーテン開閉機器をまとめて統括できる。1万円台半ばと入門としては高めだが、これ1台で家中の赤外線家電が対象になる。将来ちゃんと広げる気があるならこれ。
Nature Remo mini。同じくスマートリモコンで、機能を絞ったぶん安い。温度センサーを備え、エアコンの自動制御には十分足りる。アプリの作りが素直で、設定に迷いにくい。エアコンと照明さえ動けばいい、という目的なら最短距離にある。国産メーカーで、対応家電のプリセットが国内モデルに強いのも実用上ありがたい。
TP-Link Tapo P105(スマートプラグ)。2,000円前後で買える最小の入り口。コンセントに挿して機器を繋ぐだけで、スマホと音声で電源を切り替えられる。間接照明や扇風機、加湿器に効く。何より、失敗しても痛くない金額であることが入門用として大きい。合わなければ引き出しに戻すだけで済む。
3つ全部は要らない。今ある家電をリモコンで操作しているならスマートリモコン、コンセントを抜き差ししている機器が多いならスマートプラグ。この分岐で選べば外さない。
家電を揃える段階から考えておく
これから引っ越す、あるいは家電を買い揃えるところなら、順番の話をしておきたい。後付けの装置は便利だが、最初からアプリ対応の本体を選んだほうが素直に動く領域もある。エアコン、シーリングライト、ロボット掃除機あたりがそれだ。逆に電子レンジや洗濯機は、スマート対応でも実際に使う機能が少なく、価格差ぶんの価値を回収しにくい。
とはいえ、スマート対応を理由に家電の基本性能を妥協するのは順番が違う。冷蔵庫は容量と静かさ、洗濯機は容量と乾燥方式で選ぶべきで、アプリ連携はおまけの位置にある。一人暮らしの家電をゼロから揃える手順は一人暮らしの家電ガイドにまとめてあるので、そちらも合わせて見てほしい。
まとめ|1つ動かせると次に進みたくなる
最初の1つは、毎日必ず触る操作を置き換えるものにする。多くの家庭ではそれがエアコンと照明で、だからスマートリモコンが最短になる。費用を抑えて試したいならスマートプラグ、電球むき出しの器具があるならスマート電球。規格やハブの話は、機器が増えてから考えても遅くない。
そして、ネットが落ちても手で操作できる逃げ道だけは残しておく。この一点さえ守れば、スマート家電で本気で困ることはまず起きない。
面白いのは、1つ動くようになると急に欲が出ることだ。エアコンが自動で動き始めた翌週には、玄関の照明のことを考えている。気づけばアプリの自動化ルールが12個に増えていた。増やしすぎると何が原因で何が動いたのか分からなくなるので、そこはほどほどに。
製品の仕様や対応状況は更新されることがあるため、購入前にメーカーの公式サイトで最新の対応家電リストを確認してください。
