引き出しが閉まらなくなった。原因は分かっている。いつか使うと思って買った皮むき器やら計量スプーンやらが、層になって積もっているせいだ。キッチンの便利グッズは、増やせば増やすほど台所が便利になる——という話ではないらしい。この記事では、一人暮らし10年で最後まで残ったものと、期待した割に持て余したものを分けて書く。狭いキッチンでの置き場所の作り方と、道具と調理家電のどちらに投資するかの線引きまで。
キッチンの道具は放っておくと増える
キッチン雑貨が増える理由ははっきりしている。1つ数百円から千円台で買えて、しかも「あると便利そう」という説得力が強いからだ。買った瞬間はたしかに便利になる。問題はその先で、使う頻度が週1を切った道具は、だんだん引き出しの下の層に沈んでいく。
そこで判断の軸を1つだけ決めておくと、道具選びはかなり楽になる。その道具が「毎日やる作業」に効くかどうか。切る・洗う・しまうは毎日発生する。対して、ゆで卵をきれいに切る・パスタを正確に量る・にんにくを潰すあたりは、頻度が低いか、既存の道具で代用できてしまう。
専用品より、毎日の作業を数十秒ずつ短くする道具のほうが元が取れる。
もう一つの軸は手入れの手間である。刻む系・潰す系のグッズは、洗う部品が増える。調理が1分速くなっても洗い物が2分増えたら差し引きマイナスで、この計算を無視して買うと大体持て余す。

買ってよかったもの
ここから具体的に。価格はどれも数百円〜数千円のレンジで、セール時はもっと下がることもある。高いものは1つも出てこない。
調理を速くするもの
分解できるキッチンバサミ。これが結局いちばん出番が多い。肉を切る、ネギを切る、袋を開ける、鶏皮の脂を落とす。まな板と包丁を出す手間が丸ごと消えるので、平日夜の調理はほとんどハサミで完結する日もある。選ぶときは刃が根元でパカッと2枚に外れるタイプにすること。分解できない構造だと、生肉を切ったあとの支点部分が洗いきれない。刃がステンレス一体で食洗機対応と明記されたものなら、扱いはさらに雑でよくなる。
薄くて硬い樹脂まな板を2枚。1枚を大きくするより、A4サイズくらいのものを2枚持つほうが台所は回る。肉用と野菜用を分けられて、洗うのも早く、立てて乾かせる。厚い木のまな板は素晴らしい道具だが、シンクの幅が60cmしかない賃貸キッチンでは、洗って乾かす場所の確保が先に破綻する。憧れだけで木を買って、半年で反りが出て、……やっぱりやめました。
洗い物を減らすもの
シリコン一体成型のスパチュラ(ヘラ)。ヘラと持ち手の継ぎ目がない、丸ごと一本のシリコンでできたやつ。炒め物にも使えて、ボウルの生地もきれいにさらえる。継ぎ目がないので洗うのは水を通すだけ。菜箸・木べら・ゴムベラの3種類が1本に集約されて、洗い物が確実に減った。耐熱表示は200℃前後のものを選べばフライパンでもまず困らない。
ステンレスのバット+網のセット。地味だが仕事量が多い。下ごしらえの受け皿、揚げ物の油切り、肉の解凍、そのまま冷蔵庫へ。ステンレスは金属なので熱が伝わりやすく、冷凍肉を上に置いておくと解凍が明らかに速い。しかも匂いが残らず、たわしでこすってよく、食洗機にも入る。皿として食卓に出してもわりと様になる。
保存と作り置きに効くもの
耐熱ガラスの保存容器。作り置きをするなら、ここは樹脂よりガラスをすすめたい。中身が見えるので冷蔵庫の奥で行方不明にならないし、蓋を外せばそのままレンジで温められて、洗ったあとにカレーの色も匂いも残らない。重さと割れるリスクはあるが、保存容器は「別皿に移す手間が消えるか」で選ぶと失敗しにくい。温め直して、そのまま食べて、洗うのが1個。これが強い。
あわせて、たためるシリコンの水切りラックも挙げておく。シンクの上に渡して使い、乾いたら丸めてしまえる。据え置きの水切りかごは、それ自体がぬめる・場所を取る・掃除の対象が1つ増える、と三重に面倒だった。
買ってよかった5つを、頻度と手入れの観点で並べるとこうなる。
| 道具 | 主に効く場面 | 使用頻度 | 手入れ |
|---|---|---|---|
| 分解式キッチンバサミ | 切る作業ほぼ全般 | ほぼ毎日 | 分解して洗う・食洗機対応品が楽 |
| 薄い樹脂まな板2枚 | 肉と野菜の使い分け | ほぼ毎日 | すすいで立てるだけ |
| シリコン一体スパチュラ | 炒める・混ぜる・さらう | ほぼ毎日 | 水を通すだけ |
| ステンレスバット+網 | 下ごしらえ・油切り・解凍 | 週3〜4 | こすり洗いOK |
| 耐熱ガラス保存容器 | 作り置き・温め直し | 週3〜4 | 匂い移りなし・やや重い |
持て余したもの
失敗も正直に書く。どれも製品として悪いわけではなく、使う頻度と手入れの釣り合いを読み違えただけである。
手動のみじん切りチョッパー。紐を引くと中の刃が回るやつ。玉ねぎのみじん切りが十数秒で終わるのは事実で、そこは期待どおりだった。ただ、洗う部品が本体・刃・蓋・紐まわりと4つある。包丁でみじん切りにして、まな板1枚を洗うほうが速い。玉ねぎを1回に3個以上刻む人には効くが、1個で足りる暮らしには過剰だった。
電子レンジのゆで卵メーカー。使えば動くし、指示どおりに使えば失敗もしない。しかし卵は鍋でも10分で茹だる。専用品は「その料理をする日にしか居場所がない」ので、引き出しの中では常に他の道具に押されて負ける。
ニンニクプレス。潰した直後は感動する。そのあと、格子の目に詰まった繊維を爪楊枝でほじる時間が待っている。包丁の腹で潰したほうが早いと気づいた日に引退した。
共通するのは、時短の効果を作業時間だけで見積もっていた点だ。洗う時間と、しまう場所と、取り出す手間まで足して初めて損得が出る。

狭いキッチンでの置き場所をどう作るか
賃貸のキッチンは、調理スペースがコンロ横に20〜30cmしかないことも珍しくない。ここを道具で埋めると調理そのものができなくなるので、置き場所は水平ではなく垂直に作るのが基本になる。
まず吊るす。よく使うハサミ・スパチュラ・お玉は、引き出しにしまわず壁やレンジフードのフチに掛ける。マグネットが付く冷蔵庫の側面も一等地だ。取り出す動作が1秒短くなる道具ほど使用頻度が上がり、使用頻度が上がった道具ほど台所が回る。
次に上へ逃がす。シンク上のつっぱりラックやコンロ奥のラックで、皿や調味料を作業面から持ち上げる。ここで大事なのは、上に載せるのを「毎日使うもの」ではなく「週1〜2で使うもの」にすること。頻度の高いものを高い位置に置くと、結局出しっぱなしになる。
そして、置き場所を1つ作るたびに1つ手放す。これをやらないと収納が増えた分だけ道具も増えて、同じところに戻ってくる。
①シンク幅・コンロ横のスペースを実測してから注文する(「コンパクト」の基準はメーカーごとに違う)
②食洗機を使うなら、対応可否を商品説明で確認する
③同じ役目の道具がすでに引き出しにないか、一度全部出して見てから決める
調理家電と道具のどちらに寄せるか
予算が2万円あるとして、雑貨を10個買うか、調理家電を1台買うか。ここは悩みどころだが、線引きははっきりしている。
判断の目安はこうだ。調理の「手を動かす時間」がつらいなら道具、「コンロの前に立ち続ける時間」がつらいなら家電。前者はハサミやスパチュラで削れるが、後者は電気鍋や炊飯器でしか削れない。逆に言えば、まな板の上の作業が苦にならない人が高機能な調理家電を買っても、置き場所を取るだけで終わることがある。
調理家電のほうを検討している人は、調理家電のおすすめと選び方をまとめた記事のほうが役に立つはず。方式ごとの向き不向きを整理してある。
洗い物まわりの道具は掃除と地続き
キッチン雑貨を選んでいると、途中から掃除の話になる。当然で、シンクまわりに置いたものは全部、汚れる側に回るからだ。水切りかご、スポンジ置き、三角コーナー。この3つは便利グッズであると同時に、掃除する対象でもある。
だから最近は、置くものを減らして掃除の対象そのものを減らす方向に振っている。三角コーナーはやめて、排水口ネットと自立するゴミ袋に移行した。スポンジは吸盤ホルダーで吊るし、水切りは前述のたためるラックに変えた。シンクに直置きしているものがゼロになると、シンクを洗うのが1分で終わる。
便利グッズを追加する前に、「これはあとで自分が洗うものか」を一度考えるだけで、無駄な買い物がかなり減る。
洗剤やスポンジの選び方まで含めた掃除グッズの話は、掃除グッズをまとめた記事のほうに書いている。キッチンの道具選びとセットで読むと、シンクまわりの構成が決めやすい。
まとめ|使う回数が多い道具から良くしていく
結論としては単純で、毎日触るものから順に良くしていくのがいちばん外れない。ハサミ、まな板、ヘラ、保存容器。この4つが自分の手に合っているだけで、台所の空気はかなり変わる。逆に、月1回しか出番のない専用品は、どれだけ賢い仕組みでも引き出しの底に沈む。
それはそれとして、実用一辺倒で選ぶのも少し寂しい。銅のミルクパンとか、真鍮のスプーンとか、使うたびに眺めてしまう道具はやっぱりいい。素晴らしい質感である。ずっと見ていたい。そういう一軍は1つか2つでいい——と自分に言い聞かせながら、今日も何かをカートに入れかけている。皆さんはどうでしょうか。
価格やセールの状況は時期によって変わるので、購入前に最新の販売ページで確認してほしい。
